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ケーススタディ 地方不動産業者の不動産証券化 ㈱日本システム評価研究所 不動産鑑定士・司法書士 山 田 毅 2007.09.11 (本コラムは雑誌「不動産流通」(不動産流通研究所出版)7~9月号に連載したものに一部内容を変更し加筆したものです。) 1、地方中小業者のステージへ・・・ 首都圏での投資適格物件の枯渇と取得競争の一層の激化で不動産投資対象が地方へ拡大しています。ノンリコースローンの小ロット化や証券化組成業務の標準化などで地方の中小業者も不動産の証券化が可能なフェーズに入ってきました。さらに追い風になるのが国交省による地方での証券化の支援の動向です。地方での証券化に対する期待やニーズの急速な高まりに比べて地方で証券化が出来る人材が極めて少ないため、人材育成を含めた基礎インフラ整備が急がれてますが、このタイミングは、地方業者が地方完結型の不動産証券化へチャレンジする絶好のチャンスといえます。 今回のコラムは、具体的なケーススタディを想定して地方の中小業者にとって証券化のメリツトと中小業者がどのように不動産の証券化関わるかについて書いてみたいと思います。 2、地方業者による証券化ケーススタディ(ストラクチャリング) 地方都市で不動産管理・仲介をメイン業務にする中堅業者A氏をケーススタディに想定します。証券化する不動産は、地元の資産家B氏保有の築20年のRC賃貸マンションで、鑑定予想価額が3億円相当。立地はベストですが、外観や間取・設備が時代ニーズに合わず、稼働率が70%と低迷しており、大規模修繕の周期からみても売却の意向とします。 業者A氏は、長年の地元での経験から立地より見てリノーベーションコスト1億円かければ稼働率を90%台まで回復し、家賃も25%上昇すると見込みました。しかし改修コストを要する低稼働物件なので通常の融資では銀行交渉の難航が予想されます。最近は金融庁の監視が厳しいようで銀行も投資目的の不動産融資には選別姿勢を強めて慎重になってきているからです。 そこでA氏は、「物件価額」+「再生コスト」に「証券化組成コスト」0.2億円を加えた総投資額4.2億円の不動産証券化の検討を開始しました。
総投資額4.2億円を投下して物件購入、バリューアップを行うと事業採算性からみてどうなのかを下記のように概算した結果、総投資額の約20%増の資産価値増加が見込まれるので証券化にトライすることにしました。
ストラクチュアアリングについては、地方不動産の価額に比べ信託報酬が高額なことに加え、最近、JREITで建物の遵法性に問題がある物件に対する金融庁の行政処分が相次いでおり信託の受託基準が厳しくなってきているので信託を使うことを避けて、まず資産流動化法に基づく『TMK方式』を検討しました。しかし2重課税回避の適用を受けるための要件が厳しいため選択しませんでした。(今後は要件緩和されていくと思われます。) そこで採用したのが、小型案件の証券化のケースでよく使われ手軽に組成できる『GK+TK』スキームです。まず有限責任中間法人を設立し、当該法人が出資者で社員となるSPC(合同会社)を設立します。 不動産購入は、信託を使ってB氏からSPCへの信託受益権の譲渡で行い、B氏へ支払う購入代金や証券化組成費用等は、[ノンリコースローン+匿名組合出資]で調達します。建物の遵法性に問題があっても建物再生コストで改善できるので信託銀行の受託要件をクリアできるはずです。 エクイティ投資に匿名組合を使うのは、後述しますがSPCへの法人税課税と投資家の配当への2重課税を回避して投資効率を低下させないための方策です。物件の家賃収入から諸費用、信託報酬、ローン利払いなどを差し引いた残余を投資家に配当し、バリューアップして5年後に売却します。 このスキームのストラクチュアリングのポイントは次の3点になります。
【倒産隔離】 売主B氏(オリジネーター)が万一、倒産、破産したときはB氏の債権者や破産管財人などがB氏→SPCへの不動産移転を詐害行為だとか、譲渡担保によるファイナンスで真性な譲渡でないとか、また管財人が否認権などを行使してくる可能性があります。B氏→SPCへの不動産移転が否定されると証券化の経済的基盤が根底から瓦解し投資家に損害をもたらします。 このような事態に備えて不動産の移転が詐害行為に該当しないか移転時のB氏の財務状況を内密に調査したり、不動産が真性に譲渡されている旨の弁護士の法律意見書を取ります。譲渡価額が適正であったことを証明する不動産鑑定評価書も真正な譲渡であったことを立証できる資料として必須です。 またSPC自体が倒産しないようにするため、SPCの他の事業への関与や借入を制限し、SPCの取締役、債権者に倒産申し立て権の放棄を誓約させます。このスキームでは有限責任中間法人を使っていますが、その理由は、有限責任中間法人は議決権を持つ社員とSPCへの基金の出資者を分離できるからで、議決権を持つ社員に中立的な会計士などを当てて利害関係者が議決権を行使して倒産申し立てをする可能性を排除するためです。 【2重課税の回避】 SPC段階で法人税が課税され、配当金にまた配当課税されると2重に課税され、その分だけ配当が目減りするためスキームの投資効率が低下します。そこでSPCが配当可能所得の90%超を投資家に分配するなどの一定要件を満たせば、損金算入されるようにして実質上、2重課税を回避します。 上記スキームでは、エクイティ出資を法人格がないので法人税が課税されない商法上の匿名組合出資にしているのですが、匿名組合出資は不動産特定共同事業法の適用を受けます。もともとSPCは、資本金等のコストを抑えたペーパーカンパニーで人的構成も殆ど持たないのが実態ですから資本金や純資産額など必要要件のハードルが高い不動産特定共同事業者になることはできるだけ避けなければならず、当該法の適用を受けない信託を利用します。 信託を使うメリットは、ほかにもあります。まず不動産移転時の流通課税(登録免許税や不動産取得税)の非課税、軽減です。また「ウオーターフォール」といってテナントから上がる収入が信託銀行のキャッシュマネジメント機能により、信託口座→SPC口座へ順次資金が流れて必要な経費やフィー、レンダーへの元利払が各段階で控除され最後に投資家への配当が完了するという一連のキャッシュフローの分別管理が高い信頼度で実現します。 【資金調達バランス】 本件の証券化スキームでは、70%がノンリコースローンで30%がエクイティ出資です。エクイティ出資者を数多く集めれば、A氏を含む他の投資家の出資額が少なくなり、出資額のハードルは下がりますが、運用時の事務コストや手間が増えるのでその辺のバランスを判断して募集人数を決めます。 資金調達のうちノンリコースローンについては、地元銀行で調達が無理なときは、都銀、外資系レンダーなどから調達します。エクイティ部分は、業者A氏ならびに投資家C、D、E氏が匿名組合出資します。業者A氏がエクイティ出資に参加することで、リスクが共有(=same boat)されるので他の投資家の安心感を高める効果があります。 リノベーション効果による家賃・稼働率上昇を見込むとかなりの高配当となる予定ですが、投資家C、D、E氏への配当、償還の順位をA氏に優先させる優先劣後構造にして投資家3人のリスクを低減し、エクイティ出資をしてもらいやすいように工夫します。
3、不動産業者の関わり方 証券化の組成作業は、アレンジャーに任せるのが一般的です。アレンジャーは信託銀行、ローンレンダー、証券会社などが携わりますが、独立系のアレンジャーも存在します。スキームストラクチュアリング段階でのA氏の役割は、エクイティ出資の投資家をスキームに参加させることです。 本スキームではC,D,E氏にお願いしました。日頃の仲介管理業務でA氏は信頼が厚いので「あなたなら任せられる。」と言ってくれた顧客のなかから各出資額、SPC運用時の事務コストなども考え3名に絞りました。この辺が地域密着の地元業者の強みですね。 さらにA氏の重要な役割は、組成時点からエグジット(出口)にかけて証券化物件のマーケット分析や事業採算性を判断することです。この部分は証券化事業の成否を左右する根幹なので疎かにすると証券化が絵に描いた餅になりかねません。各専門家のデユーデリジエンスの成果品である建物のエンジニアリングレポート、鑑定評価書、エリアの賃料動向などのマーケットレポートをじっくり読み込み、A氏が地元物件に対する目利きや相場観を縦横に駆使して総合的な投資判断をします。 A氏は、投資家や銀行に対する事業性、投資分析全般についてアカウンタビリティを強化し、さらに証券化を事業ツールの一環とした不動産コンサルタント業務を強化するため専門家(建物の再生プランと実現コストを見積もれる建築専門家、ファイナンス理論やDCF法で投資分析ができるコンサルタントなど)と連携して今後、知識を深化させていくことになります。 証券化後、A氏は、証券化物件の管理や入居者仲介などを行いフイーを得ます。またA氏のエクイティ出資部分は配当、償還の順位がC、D、E氏に劣後するのでその分リスクは高くなりますが高レバレッジとなり高いリターンも期待できます。 このように不動産業者が不動産証券化を実行することで従来業務(仲介・管理)の拡大を図り、さらに不動産業の先進的業態といえるAM業務やPM業務への適応能力を高めることができます。 このようなビジネスモデルを練り上げるときに注意しなければいけないのは施行間近の「金融商品取引法」の動向です。今秋に施行されると信託受益権をはじめ集団投資スキームとなる匿名組合出資が「みなし有価証券」となり、『GK+TK』スキームは当該法の適用を広範に受けることになります。(金融商品取引法については政省令が本年4月に出ていますが詳細な運用については施行前の現時点では明らかでありません。) 金融商品取引法は、特にアレンジャーやAM業務には影響を及ぼし、その業態と証券化への関わり方如何で下記の金融商品取引業者のいずれかの登録を受ける必要が出てきます。
例えば発行者であるSPCが匿名組合出資者を募る行為は有価証券の募集や私募に該当し、第二種金融商品取引業者の職域になるので(適格機関投資家特例業務に該当しない限り)第二種金融商品取引業者の登録が必要となります。 しかしSPCは、ペーパーカンパニーでありその法的性格と金融商品取引業務を遂行できる人的構成を持たないことから第二種金融商品取引業者になることは事実上不可能です。現実にはアレンジャーなどが第二種金融商品取引業者の登録を受けSPCからの委託で匿名組合出資の募集や私募を行うことになると思われます。 また匿名組合出資持分はみなし有価証券であるため匿名組合の営業者であるSPCの行為は投資運用業に当たります。このケースも適格機関投資家特例業務に該当しない限りSPCは投資運用業の登録が必要となりますが、上記と同様の理由でSPCが投資運用業の登録を受けることが事実上不可能なためAMが投資運用業の登録を受けて当該行為を行う必要性も発生します。 このように金融商品取引法によってAMの証券化への関与の仕方によって金融商品取引業者のいずれかの登録が必要になってきます。 例えばAMがSPCに対して「金融商品の価値等の分析に基づく投資判断」に当たる投資不動産の運用や処分などについて助言を行うにとどまる場合は、投資助言業者の登録となり、AMに投資運用判断が「投資一任契約」で一任されて投資実行権限をも委任されるケースでは投資運用業の登録が必要になります。投資運用業登録要件のハードルは最低資本金や純資産規制など中小業者にとって高いので注意が必要です。 4、地方業者の参入メリット 以上のように業者が証券化に関与することで物件の管理や入居者仲介など従来業務を拡大できることは当然として、証券化で得られたノウハウを生かして、稼働率の低下に悩む管理先や顧客に対して証券化という新たな資金調達や物件のバリューアップサポートを行い、従来業務から証券化を取り巻く周辺業務まで業域拡大ができるビジネスモデルを構築できます。 証券化を打ち出の小槌のように過度な期待をしてしまう風潮がありますが、証券化するとSPCに不動産を移転しなければならず、組成・運用コストも現状ではまだ高額なためプロジエクトの費用対効果の視点から証券化の効果を慎重に秤量しなければなりません。 とはいえ、地方中小業者が、これまで蓄積してきた信用基盤や地元ならではの情報収集・分析力を生かして証券化にトライすれば、地域での競争力を高め、新たなステージでビジネスチャンスを拡大することが可能になるでしょう。 ■関連コラム 中小不動産業者にできる不動産私募ファンドのセットアップ |
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